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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)4064号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差戻す。

理由

高松高等検察庁検事長市川季熊の上告趣意並びに被告人等の弁護人甘糟勇雄同田万清臣の各答弁はいずれも末尾添付の別紙書面記載のとおりであって、これに対し当裁判所は次のように判断する。

原判決は「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」二条の職務とは同法別表乙号に掲げられたもののもつ業務全般を指すものではなく独占事業会社が行う事業の内独占的性質を持つ事項を内容とする事務若しくは統制団体の行う事務の内統制に関する事務即ちその本来の事業に関する事務だけに限るべきものとすると解し賄賂罪の成立を否定するのであるから、論旨引用の判例が、統制に関する業務をなす会社のうち別表乙号に指定したものの役職員の職務に関するかぎり、それが統制に関する業務自体であると否とを問わず、賄賂罪として処罰する趣旨であるとするところと、相反する判断をしたものであること明瞭である。しかも、その後の当裁判所判例(昭和二八年(あ)第四三八一号、同三〇年五月一〇日第三小法廷判決、昭和二八年(あ)第二九〇九号、同三〇年七月五日第三小法廷判決)は、「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」二条が、同条の定める会社、組合またはこれらに準ずるものについて、その事業または業務を限定するところにかんがみるときは、同条にいう役職員の職務とは、その職務であれば右にいう事業または業務にかかわりなく、すべて含むと解すべきでないこというまでもないが、他面、立法の趣旨がこれらの事業または業務の公共的性質に注目して本条の収賄罪を設けたことを考え合わせると、これを厳に本来の独占的または統制的性質をもつ事務に局限すべきではなく、本来の事業または業務を行うために必要な関係にある事務をも含むべきものとしており、いまこれを変更すべき理由をみない。本件土佐電気鉄道株式会社が右法律二条別表乙号三〇にいう「地方鉄道法十二条ノ規定ニ依ル免許ヲ受ケ地方鉄道業ヲ営ム者」である以上、同会社が線路の一部を電化するに当り、その架線工事を請負わせることは、その会社の本来の事業たる運輸事業自体とはいえないが、これを行うために必要な関係にある事務であること明らかである。従って右会社の役職員がこのような事務を担当している場合には、その事務は右法律二条にいう職務に当るものと解しなければならない。さすれば、原判決がこれを同条の職務に当らないとして、被告人等に対し無罪の言渡をしたのは、当裁判所の維持するをえないところである。

よって、刑訴四一〇条一項本文、四一三条本文に則り、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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